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インタビュー第1回 後半

引き続き、三鷹の歴史研究会の太田さんにお話を伺います。

 

前編は井の頭地域の今昔や、親之井稲荷尊の現状についてのお話でした。

後編にあたる今回は、歴史を探る面白さや、そこから見えてくる世界観について、対談をしていきます。

 

 3、ルーツを探る

 

(K) 太田さんはなぜ歴史に興味をもつようになられたんですか?

 

(太田さん) もとはサラリーマンだったんだけど、 

親父が亡くなったときに、役所へ行って書類を見た。そうしたら、今まで知らなかった親戚がいることが分かったんだ。

どこかに会ったこともない従兄弟がいるかも知れない、、自分の家系のこと、調べてみようと思ったんだよね。

区役所に行って資料を見せてもらったら、曾祖父の代に「越中ヨリ来タル」って書いてあった。富山人かー、ってね。

国会図書館に行って「太田」姓を全部調べてみたけど、それ以上のことは分からなかった。でも、「越中」と分かる資料が焼けてなかっただけでも感謝だね。

 

(T) へえー!そういうことって分かるんですね。越中ヨリ来タル、というのがまた、江戸時代の表現でいいですね。

 

(太田さん) なかなか個人のは残ってないけど、辿れたら面白いよ。調べてみるといい。

それで歴史に興味を持って、まずはぼちぼち住んでるところを調べ始めたんだ。

 

 

4、渡来人と私たち

 

(太田さん) この辺りを牟礼と呼ぶけど、牟礼という地名がどこから来たのか、色んな説があって。

 

(O) 確かに、牟礼って不思議な響きですよね。カタカナっぽい。

 

(太田さん) ムレというのはね、朝鮮半島の言葉で「水」という意味だって説がある。

 

(K,O,T) ええっ!?

※湧き水からできた井の頭池や神田川、蛇の形をした宇賀神像など、お稲荷さんの会にとっても「水」はとても重要なキーワード。

 

(K) 牟礼が水って意味だとすると、どの辺りをさすんでしょうか。

 

(太田さん) 地元の長老に聞くと、牟礼団地の辺りは昔、広い湿地帯だったらしいよ。

 

玉川上水ができてから、井の頭の少し上から取水をとって、田んぼができた。

さらにそのあと、丸の内線を掘ったときの残土を埋めて、団地ができたんだ。

 

(O) そうなんですか!

 

(T) そういえば、古い資料にも、この辺り一帯がぼうぼうと蘆が茂る湿地帯だったことが書いてありました。※井の頭紀行、江戸後期

 

 (K) 朝鮮半島の言葉が地名に残っているとすると、渡来人が住んでいたんでしょうか。

 

(太田さん) 牟礼と杉並区の境目辺りに、久我山ってところがあるよね。

そこの久我山神社には渡来人のことを書いた札が立ってる。

このあたりに住み着いた「秦氏」の由来がね。

 

(T) 秦氏ですか!秦氏といえば、全国の稲荷神社の総本山、京都伏見稲荷も秦氏の氏神でしたね、、

 

(太田さん) 中国では秦(シン)という字が、韓国で秦(ハタ)、となって日本に来た。

久我山には秦さん、あるいは波多さんという家が今もたくさんあるよ。

 

(T) そういえば、、、井の頭池には古い名前が3つあるそうですが、「七井」「親の井」そして「狛江」ですね!

「狛江橋」も架かっています。それって、、

 

(太田さん) ああ、「狛江」というのも「高麗」つまり朝鮮半島の地名から来ている言葉だね。

三鷹の新川のほうに行くと高麗さんという人が多いよ。

 

(T) わあ、すごい。本当にそうなんですね。

 

(太田さん) うん、本当にそうだよ。まあ、日本人の8割は朝鮮半島から来ているからね。

 

(T) 原住民みたいなものもいたかも知れないけど、もう、いりまじっているでしょうね。

 

(太田さん) 大沢に1300年以上前の石器時代の人々の痕跡、お墓などがあるけど、今その人たちはどうなっているんだろう?

不思議なんだけど、何も残っていないんだ。現在とのつながりが分からない。

 

(O) 流れていったのか、絶滅したのか、渡来人といりまじったのか、、

 

(太田さん) もし血のつながりがあったら知りたいもんだね。

誰だって何もないところにポッと湧いたわけじゃないから、元をたどれば、どんな歴史があるか分からないよ。

 

(K) 人類は、もとはアフリカから始まって、世界中に広がっていったわけですからね、、。

日本に来たのは朝鮮半島からのルートとか、東南アジアからのルート。

 

(太田さん) どちらにしてもアジア系、モンゴロイドが多いね。

 

※牟礼の由来についてははっきりしておらず、韓語で山という意味、森、群れ、村、などの言葉から、など諸説あります。

太田さんのお話にあったのは、韓国語の mul ムル=水という意味です。

 

 

5、つながる世界

(太田さん) つい最近テレビ番組で、ある芸能人の方が、カナダのネイティブアメリカンに自分と同じ名字の人がいることを知って、会いに行くってのをやってたけど。

 

(T) そっちのルート(環太平洋)もつながってるっていいますよね。

イエローナイフあたりから、カヌーで人が流れてきて、土着の神話とかも共通するものが伝わってる。

 

(K) そうそう。今ちょうど調べてるんだけど、人類の神話って2種類あると言われてて、ローラシア型とゴンドワナ型がある。

 

ローラシア型っていうのはすごく物語性が強くて、日本だったら古事記のイザナギ、イザナミの話とか。

奥さんを連れ戻しに冥界に行く、、みたいな同じような話が、実は世界中にある。

 

ゴンドワナ型はそんなに話の筋は決まってないけど、

最初から世界があって、星や風や動植物も人間と一緒に地上に暮らしていたと伝えられている。

オーストラリアのアボリジニとかだね。

 

(T) ゴンドワナが土着信仰で、ローラシアが後の宗教ってこと?

 

(K) いや、ルートが違うだけで、どちらも人の移動と共に流れてきたんだよね。

日本にもいくつかのルートで入ってきて、両方混じってる。

 

(太田さん) 日本の神話は、山岳信仰も混じってるし、後の時代にインドから中国大陸を経由して入って来た仏教ともまじってるね。

 

(太田さん) うちの先祖が、越中から来たって言ったでしょう。「越」って、ベトナムのことだよ。

 

(K,O,T) えっ?

 

(太田さん) 三国志の時代の話、日本は卑弥呼がいた頃かな。

中国大陸では魏、呉、蜀の三国が戦って、最後に残ったのが呉だった。

 

呉は南の方の国で、その下のベトナム「越」とも常に戦ってた。

それで呉が負けると、司令官とかが海に逃げて、日本に流れ着いて九州あたりへ着く。

越が負けるとまた海へ逃れて、金沢とか、富山、新潟あたりへ。

それがほら、越前、越中、越後だよ。

結局、流れ着いた日本で入り交じって仲良くやっている。「呉越同舟」っていうわけだね。

※呉越同舟:仲の悪かったどうしが同じ境遇に居たり、同じ目的のために協力していること。

 

遺伝的にも、日本海側の人はベトナムの人と近いとか。

もしベトナムにルーツがあるなら、一度は行ってみたいねえ。

 

(T)面白いなあ。日本にとどまらないですね。どんどん広がっていって、繋がっちゃう。

 

(O)なんか平和な気持ちになりますね。みんな混ざってるんだなと思うと。国境なんて無い。

 

(太田さん)今の国と国との争いを見てると、何やってるんだそんな些末なこと、と思えてくるよね。

 

 

 さて、2時間にわたるインタビューはこれで終わり。いかがでしたか?

自分の家のルーツから、土地の歴史、渡来人の歴史、ついには人類の歴史にまでお話は広がりました。

歴史には謎が多く諸説ありますが、太田さんから飛び出してくる様々な知識が興味深く、私たちも感動しました。

太田さん、本当にありがとうございました。

 

これからも、井の頭に関わる様々な方にインタビューしてみたいと思います。